# 再生と機会
講堂の空気は冷たく、埃の匂いが鼻をついた。李昊は最前列の席に座り、講壇を見つめていた。教授がマクロ経済学の講義を始めようとしている。彼の頭の中は前世の記憶で溢れていた。
二十四歳。全てを失った年齢。ジャックの手下に拉致され、暗い地下室で恋人たちに拷問される映像が、フラッシュバックのように甦る。林暁暁の泣き顔が、蘇婉児の冷笑が、夏雨欣の無表情が、脳裏に焼き付いている。
「李昊君?聞いてるのか?」
教授の声で現実に引き戻された。周りの学生たちが好奇の目で彼を見ている。彼は首を振り、ノートを開いた。今は前世の記憶を活かす時だ。将来有望なテクノロジー株のリスト、急成長する業界のトレンド、全てが彼の中にある。
放課後、李昊は大学近くのカフェに向かった。既に設立したばかりの会社には、数人の優秀なエンジニアが在籍している。彼の記憶にあるアルゴリズムとビジネスモデルは、今の時代には革新的すぎるほどだ。
「李昊社長、新システムのデモが成功しました」
電話の向こうで、プログラマーの張偉が興奮した声を上げた。李昊は微笑んだ。これで最初の資金調達ラウンドは確実だろう。だが、金は目的ではない。目的は、前世で自分を破滅させた者たちへの復讐だ。
カフェの自動ドアが開いた。ちょうど正面から、見覚えのある顔が現れた。李昊の手が震えた。
林暁暁。
彼女は高校時代の初恋の相手だ。前世では、ジャックに拉致され、洗脳された末に奴隷に落とされた。最後の記憶は、彼女が黒人の巨根に跨り、恍惚とした表情で腰を振る姿だ。その瞳には、かつての純粋さは微塵も残っていなかった。
「暁暁?」
李昊は声をかけた。彼女は少し驚き、すぐに笑顔になった。
「李昊?久しぶりだね。高校以来だ」
彼女の声は昔と変わらず優しい。白いブラウスにブルーのスカート、清潔感のある服装が彼女の善良な性格を物語っている。李昊は胸が締め付けられる思いだった。
「ここで会うなんて偶然だね。君もこの大学?」
「うん。経済学部に編入したんだ」
李昊は微笑み、彼女にコーヒーを勧めた。前世の記憶が、深い悲しみと共に彼を苛む。しかし、もう二度と同じ過ちは繰り返さない。彼女を守る。それが今の自分の使命だ。
「最近、どう?就職活動は順調?」
「うん。でも、なかなか難しいよね。特に大手は倍率が高いし」
彼女の話を聞きながら、李昊は心の中で計画を練っていた。まずは暁暁を救うこと。そのためには、ジャックという存在を潰さなければならない。彼がいつ、どのように彼女に接触するのかを正確に思い出せるか?
「もしよかったら、うちの会社で働かない?まだ立ち上げたばかりで、人手が必要なんだ」
暁暁は目を丸くした。
「え?李昊が会社を?」
「ああ。AI技術関連のベンチャー企業だ。給料は十分出すし、能力を伸ばせる環境を用意する」
彼女はしばらく考え込んだ後、嬉しそうに頷いた。
「ありがとう。ぜひお願いしたい」
二人は連絡先を交換し、ランチの約束をした。李昊は彼女の笑顔を見て、心の奥で固く誓った。絶対に守る。二度と同じ悲劇は起こさせない。
数週間後、李昊の会社は順調に成長していた。最初の製品であるAI予測システムは、株式市場で驚異的な成績を上げ、大手投資家たちの注目を集めた。大学のキャンパスでは、彼の成功が噂になっていた。
「あの李昊ってやつ、すごいらしいよ。もう数千万の資金を調達したんだって」
「マジかよ。同じ大学生とは思えないな」
学生たちの羨望と嫉妬が入り混じった視線を浴びながら、李昊はキャンパスを歩く。前世では、この成功が自分の首を絞めることになった。傲慢になると、周りを見えなくなる。今回は違う。慎重に、しかし確実に。
そんなある日、大学のディベート大会が開催された。テーマは「AI技術の倫理的限界」。李昊は会社の代表として招待された。講堂には多くの学生が詰めかけている。
彼が登壇すると、拍手が沸き起こった。その時、対戦相手が壇上に上がる。李昊は息を呑んだ。
蘇婉児。
彼女は経済学部で最も有名な美女だ。長い黒髪をストレートに伸ばし、目は冷たく澄んでいる。高級ブランドのスーツを身にまとい、指にはダイヤの指輪。彼女の家は市内でも指折りの富豪だ。
「李昊さん、お会いできて光栄です」
彼女の声はクールで、一切の感情を感じさせない。李昊は無意識に拳を握りしめた。前世では、彼女もジャックに拉致され、冷酷な性格を保ったまま、淫らな奴隷に改造された。最後には、黒人の巨根を咥えながら淫語を叫ぶ、見る影もない姿に変わり果てていた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
李昊は平静を装って会釈した。ディベートが始まる。蘇婉児は確かに優秀だ。論理的な思考と流暢な話術で、観客を惹きつける。しかし、李昊の前世の知識と経験には敵わなかった。
「AI技術の倫理的問題は、確かに重要なテーマです。しかし、技術の進歩を止めることはできません。重要なのは、適切な規制と教育です」
李昊はそう締めくくった。観客から拍手が起きる。蘇婉児は複雑な表情で彼を見つめた。
「ありがとうございました。本当に勉強になりました」
ディベートが終わり、彼女は李昊に歩み寄った。
「あなたの会社、聞いたことがあります。もしよければ、今度お話を聞かせてもらえませんか?私も投資には興味があります」
李昊は一瞬躊躇した。だが、これもチャンスだ。彼女を救うためには、まず彼女と関係を築く必要がある。
「もちろんです。ぜひ、お会いしましょう」
二人は名刺を交換した。蘇婉児の指が、かすかに彼の手に触れた。その瞬間、李昊の脳裏に前世の映像がフラッシュバックした。彼女が黒人の巨根に跨り、恍惚とした表情で腰を振る姿。淫らなピアスが光り、淫水が太ももを伝う。そして、彼女は冷たい声で言った。
「李昊、あなたはただの黄色い豚よ」
李昊は頭を振り、その映像を追い払った。今はまだ甘く見守る時ではない。蘇婉児もまた、ジャックの魔の手から救い出さなければならない存在だ。
数日後、李昊は蘇婉児と高級レストランで会食した。彼女は相変わらず冷艶で、しかし興味深そうに彼の話に耳を傾ける。
「AI技術でここまで成功するとは、思っていませんでした」
「運もあります。でも、本当に重要なのは、どれだけリスクを取るかです」
「リスク、ね。あなたは怖くないの?すべてを失う可能性もあるのに」
李昊は静かに微笑んだ。
「怖いです。でも、何もしなければ、何も得られない」
蘇婉児は意味深に彼を見つめた。
「面白い人ね。これからもよろしく、李昊さん」
その夜、李昊は自宅でパソコンを開き、ジャック・ウィリアムズについての情報を漁った。前世の記憶では、彼はこの都市に潜伏し、徐々に勢力を拡大しているはずだ。今の段階では、まだ小さな不動産会社を経営しているだけだ。
「ジャック・ウィリアムズ……」
李昊はモニターに映る黒人の顔を見つめた。憎しみが胸を焼く。しかし、同時に冷静さも保たなければならない。彼の弱点は何か?前世では、彼の洗脳技術は完璧だった。しかし、今回は私に記憶がある。その知識で彼を打ち負かす。
電話が鳴った。林暁暁からだ。
「もしもし、李昊?明日、一緒にランチしない?新しいプロジェクトについて話したいんだ」
「ああ、もちろん。どこがいい?」
「学校の近くのイタリアンがいいな。築地通りにあるやつ」
二人で笑い合った。その声には、まだ純粋な温もりがある。李昊は誓った。絶対にこの笑顔を守る。二度と、彼女が淫らな奴隷に変わる姿を見たくない。
翌日、李昊は林暁暁とランチを共にした。彼女は会社で働き始めてから、自信がついたように見える。
「AIシステムの開発、本当に楽しいよ。自分の作ったコードが、実際に動くのを見ると感動する」
「それはよかった。でも、無理しすぎるなよ。健康が一番だ」
「李昊こそ、最近忙しそうだけど、ちゃんと休んでる?」
彼女の心配そうな瞳に、李昊は胸が熱くなった。前世では、この瞳が最後に黒い欲望に濁り、淫らな快楽に溺れる様を見せつけられた。
「大丈夫。君と話していると、元気が出る」
暁暁は少し顔を赤らめた。
「そんなこと言われたら、照れちゃうよ」
二人の時間は穏やかで、まるで前世の悪夢が嘘のようだった。しかし、李昊は知っている。この平穏は長くは続かない。ジャックは必ず動き出す。その前に、自分が準備を整えなければならない。
数ヶ月後、李昊の会社は急成長を遂げていた。株式市場での成功が話題になり、メディアの取材も殺到し始めた。ある日、テレビ局からインタビューのオファーが来た。
「経済ニュース番組『マーケットインサイト』のインタビューですか?」
「はい。うちのアンカー、夏雨欣が直接お会いしたいと」
李昊の手が震えた。夏雨欣。前世で、彼を最後まで苦しめた女の一人だ。彼女はもともとは優雅で品のあるキャスターだった。しかし、ジャックに拉致され変態的な改造を受けた後、性奴隷に転落。最後には、李昊の拷問に強制的に参加させられた。
「わかりました。ぜひ、お受けします」
インタビュー当日、李昊はテレビ局のスタジオに向かった。スタッフに案内されて控え室に入ると、一人の女性が立っていた。
夏雨欣。
彼女は白いスーツを着こなし、髪をアップにしてまとめている。プロフェッショナルな雰囲気の中にも、どこか優雅さが漂っている。それが彼女の魅力だった。
「李昊さん、お会いできて光栄です。今日はよろしくお願いします」
彼女の笑顔は、純粋な善意に満ちている。李昊はその笑顔に、一瞬すべての悪夢を忘れそうになった。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
インタビューはスムーズに進んだ。夏雨欣の質問は的確で、李昊も前世の知識を活かして生き生きと答える。視聴率は非常に高かったという。
インタビューが終わり、二人は控え室でコーヒーを飲みながら雑談した。
「あなたの話、とても感動的でした。特に、技術で社会を変えたいという部分が」
「ありがとうございます。夏さんの番組、いつも見ています。素晴らしいキャスターですね」
彼女は少し照れたように笑った。
「お世辞ばかり言って。でも、嬉しいです」
その瞬間、李昊の携帯が鳴った。メールの通知だ。見ると、差出人は「J.Williams」。李昊の血が凍りついた。
「すみません、急用を思い出しました。また連絡します」
李昊は慌ててスタジオを後にした。メールの内容は簡潔だった。
「お久しぶりです、李昊さん。あなたの成功、知っていますよ。近いうちに、お会いしましょう。ー J.Williams」
李昊は拳を握りしめた。もう、ジャックが動き始めた。前世と同じように。しかし、今回は違う。私は準備ができている。全ての記憶を武器にして、奴を打ち負かす。
夜、李昊は自宅の書斎で、複数のモニターを前に作戦を練っていた。彼の周りには、林暁暁、蘇婉児、夏雨欣の写真が貼ってある。三人とも、今はまだ無垢だ。だが、ジャックの魔の手がいつ彼女たちに迫るかわからない。
電話が鳴った。林暁暁からだ。
「もしもし、李昊?今日のインタビュー、見たよ。素晴らしかった!」
「ありがとう。暁暁はどうしてる?」
「うん、頑張ってる。ところでさ、明日の夜、空いてる?ちょっと話したいことがあるんだ」
李昊は心臓が高鳴るのを感じた。何か重要な話かもしれない。
「ああ、空いてるよ。どこで会おうか?」
「学校の近くの公園でいい?夕方六時に」
「わかった。必ず行く」
電話を切った後、李昊はモニターを見つめた。彼女を守りたい。その思いだけが、彼を動かしていた。
翌日、李昊は公園で林暁暁を待っていた。彼女は少し遅れて現れた。顔色が少し優れない。
「どうしたんだ?何かあった?」
「うん……実はね、最近変な電話がかかってくるんだ。知らない番号からで、変なことを言ってくるの」
李昊の顔色が変わった。
「どんな内容だ?」
「『李昊のことは信用するな』とか、『お前はすぐに黒人の男に抱かれる』とか……気持ち悪くて」
李昊は拳を握りしめた。ジャックの仕業だ。もう、暁暁に接触し始めている。
「大丈夫、私が守る。絶対に、君に何もさせない」
李昊は彼女の手を握った。暁暁は少し驚いたが、すぐに優しく微笑んだ。
「ありがとう、李昊。あなたがいてくれて、本当に安心する」
二人は公園のベンチに座り、夜の街を眺めた。李昊の心は決意に燃えていた。今度こそ、すべてを守る。前世の悲劇を繰り返さないために。
その時、遠くの街灯の下に、黒い影が立っているのに気づいた。人影はこちらを見つめている。李昊は目を細めた。
ジャックか?
影はゆっくりと闇に消えた。李昊は暁暁を強く抱きしめた。戦いの幕は、もう上がっていた。